3度目のシアトル訪問記
6月25日(月)、伊丹空港から羽田〜成田〜サンフランシスコを経由して、はるばる3度目のシアトル訪問の旅に出た。
1度目は2001年のイチローデビュー、2度目は2003年の松井デビューを、イチローとの対決という形で観戦することにあったが、今回はボストンレッドソックスに入団した松坂の快投に期待して、シアトルマリナーズとの3連戦の最後に登板する予定の松坂と、マリナーズに入団して早や7年目を迎えたイチローとの対決をじかに見ることにあった。
伊丹空港から待ち時間も含めて20時間余りの乗り継ぎで疲労困ぱい、シアトルへ到着したのが現地時間の午後4時前、そのままホテルへ直行し、チェックインもそこそこに、タクシーで4年ぶりのセーフコフィールドに向かい、午後5時過ぎに球場に到着した。
何しろ機内食以外にまともな食事はとっておらず、球場内で早速ビールにサーモンサンドイッチを買って食べたが、サイズはジャンボながら真に大味で、お世辞にも美味しいという代物でなかったのは前回と全く同様であった。
この3連戦、私の個人的な希望として1〜2戦はシアトルが勝ち、第3戦は松坂の快投でボストンが勝利することであった。午後7時過ぎに3連戦シリーズの第1戦が始まった。
試合は2回裏にシアトルが1点先取するも、3回表ボストンに2点取られて逆転された。しかし5回裏に一挙5点を取って再逆転すると、7回裏には城島とベルトレのダメ押しとなる連続ホームランも飛び出し、球場は大いに盛り上がった。9回表に2点取られたものの、結局9−4でシアトルが快勝し、地元ファンと共に勝利に酔いしれた。ただ唯一残念であったのは、イチローの連続安打が十数試合で止ってしまったことであった。
翌日の第2戦も午後7時からのナイトゲームのため、午前中は空港近くにあるボーイング社の工場見学ツアーに、現地の人に混じって参加した。さすがにジャンボ機の製造工場だけあり、その規模に圧倒されるとともに、ショールームには新機種(787)に日本製のカーボンファイバーが、軽量化の目的で使用されている実物も展示されていた。
昼近くにホテルに戻ったが、睡眠不足と時差ぼけ解消のため午後3時過ぎまで昼寝をし、午後7時から始まる第2戦観戦のため、セーフコフィールドに向かった。
試合は手に汗握るシーソーゲームとなった。まず1回表にボストンが1点取ると、その裏シアトルが3点取って逆転、更に2回裏にも1点追加したものの、ボストンが3回表1点、5回表2点を取って4−4の同点となった。それもつかの間、その裏シアトルが2点取って再逆転すると、続く6回表にボストンが2点取って再度6−6の同点、しかしその裏シアトルがホームランで2点追加し、8−6のリードとなる素晴らしい展開となり、8回表にボストンに1点返されたものの、結局、野球の試合で最高の内容といわれる8−7でシアトルが勝利し、その瞬間4万近い大観衆とともに、最高の感動を共有することができた。
この試合ではイチローも2安打、1犠打という活躍で、センターの守備でも再三のファインプレーが見られ、ボストンの岡島も8回裏1点リードされた状況で登板し、城島にヒットは許したものの、見事に無失点に抑えるという好投ぶりが見られたのも嬉しかった。
翌日の第3戦は前夜の熱戦の余韻がまだ残る、午後1時40分開始のデーゲームであった。先発はボストンが松坂、シアトルは余り実績のない投手だったため、事前の予想ではボストンの大勝かと思われた。待望の松坂対イチローの初回対決は1回裏にやってきたが、結果は2球ストライクの後、外角低めを空振りし、予想外の三球三振となってしまった。
松坂はその後3番打者も三振させ、2回裏も2者三振と絶好調の立ち上がりであった。松坂は3回裏二死まで完璧に抑えていたが、続く9番打者に二塁打を打たれ、イチローとの2度目の対決となった。1球目の内角球に完全に詰まった打球は飛んだコースが幸運し、2塁後方へのポテンヒットとなり、1点をシアトルが先取した。一方シアトルの投手は、前評判は芳しくなかったものの予想外の好投で、6回までランナーは出すものの0点に抑えた。ボストンはようやく7回に相手守備の乱れもあり、1−1の同点に追いついた。
松坂はその後も好投を続け、8回まで110球を投げ、3安打・1四球と、入団以来最高の投球内容であった。(ちなみにイチローは第3打席も三振で、結局対松坂1安打、2三振) 試合は前日に続く岡島の連投も含め、双方投手の総力戦となり、延長11回裏イチローが四球で出塁し、次の打者の左中間への2塁打でイチローが一挙にホームイン、シアトルのサヨナラ勝ちという「絵に描いたような幕切れ」となった。セーフコフィールドを埋め尽くした4万5千の大観衆は地鳴りのような大歓声を上げ、周囲の日本人ファンと共に自分も飛び上がって喜んだのだが、この時「はるばるシアトルまでやって来て本当に良かった」という思いが強く脳裏をよぎり、長旅の疲れも一挙に吹っ飛んだ瞬間でもあった。
この3連戦、結果は地元シアトルの3連勝に終った訳であるが、3日間とも絶好の天気に恵まれ、イチロー、城島、松坂、岡島という日本人選手が、それぞれの立場で大活躍し、内容的には1戦目はシアトルの完勝、その後2戦目は打撃戦、3戦目は一転しての投手戦と、いずれも中身の濃い、手に汗握るドラマチックなものであった。
今年のア・リーグ東地区はボストンが松坂、岡島の活躍もあり、2位以下を10ゲーム以上離しての「ダントツ」という全く予想外の絶好調振りである。一方西地区では、昨年まで最下位争いを演じていたシアトルが、これも予想外の好調ぶりで、2.5ゲーム差の2位につけて前半戦を終えており、いずれもプレーオフに向けて後半戦が楽しみである。
「松坂がヤンキースに入団し、イチローも移籍して、松井も含めた日本人トリオの活躍でワールドシリーズ優勝」という昨年までの夢は根底から崩れてしまった。今年イチローはFA権を獲得し、その去就が今から注目の的となっているが、今回の観戦で改めて感じたのは、彼はこのままシアトルに留まり、縁あっての入団以来、地元ファンの熱い声援で数々の個人記録更新ができたことに感謝し、シアトル優勝のため今後も全力を尽し、将来「永久欠番51」がセーフコフィールドに刻まれる時が来ることを、昨年のWBCの戦いで「侍イチロー」の一面を垣間見た日本人ファンの一人としては強く望むところである。
そしてその暁には、是非とも4度目のシアトル訪問を実現させたい。 以上