2009年の初めに


 昨年のサブプライムローン問題に端を発した米国製バブルの崩壊は、100年に一度といわれる世界的金融危機を引き起こした。驚いたことは、それまでの格付が「トリプルA」だった「優良企業」までがあわや倒産の危機に陥り、日本でも過去最高益を更新し続けてきたあのトヨタ自動車でさえ、この3月期決算は一転赤字に転落する見込みとのことである。
 振り返れば、昨年の原油(ガソリン)価格の推移を見ても、いかに投機資金が全世界を経済的に混乱させたかは記憶に新しいところである。国内では年初から上昇基調にあったガソリン価格が、4月に例の「特定財源」の税金分が一時的になくなり、25円/リッター安くなったのも束の間、それが復活され、かつ原油価格の更なる上昇と共に、夏場には一時期180円/リッターにまでになったが、今回の金融危機の影響で原油価格も当時の1/3になった結果、最近では100円/リッターを切るスタンドまであるという乱高下ぶりである。まさにこの現象は、究極まで膨らんだバブルと、それが一挙に崩壊した影響だったのであろう。
 それにしても人間というものは「欲望」を前にすると、理性を制御するシステムが機能しなくなるという普遍的な性質を持つもののようである。日本のバブルは「土地神話」に基づき、どこまでも右肩上がりで上昇するという前提が崩れて生じたが、今回の米国でのサブプライム問題も全く同様で、住宅価格がどこまでも上昇するという「あり得ない」前提があって生じた結果だそうである。我々素人が考えても、何でそんな単純で子供にも判るような「マジック」がまかり通ったのだろうか?しかも20年前に日本で生じた同様の前例があるにもかかわらず!ということである。
 聞くところによると最近は金融工学とかが発達し、これら問題あるサブプライムローンを組み込んだ金融商品が展開され、その被害の範囲が直ちには判明しないという複雑さが特徴だそうである。しかもこれら複雑化された商品の開発には、ノーベル経済学賞を授与されたような優秀な頭脳の持ち主も関与しているという話には驚かされた。いずれにしろ、今回は100年に一度と言われるくらいの危機だそうで、その影響が本格的に顕在化するのは今年になってからなのであろう。
 考えてみれば日本のバブルもそうであったが、持続できるはずもない「虚構の世界」は可及的速やかに崩壊させる方が被害は最小限に留められ、よほど世の中のためである。かつて日本では、高度成長とともに膨らんだバブル経済という「虚構の世界」が昭和の終焉と共にはじけ、その後の長期間にわたる低迷はご承知の通りである。実力もないのに勘違いして実力と思い込み「あぶく銭」に酔いしれた後は、経済的なダメージはもとより、そんな環境の中で育った子供たちをも含めた「人心の荒廃」への悪影響は計り知れない。今日様々な分野で、かつての生真面目な標準的日本人からみると、目を疑うような事件等々が続発しているが、これらも一度味わったバブル経済の負の遺産とも言えるのではないか。
 トヨタ自動車の赤字転落もさることながら、米国自動車業界ビッグ3のGM以下がこの金融危機の影響で、いずれも倒産の危機にあるそうである。原因はメーカーとしての原点である自動車の品質、コストの改善を怠っていたことに加え、本業以外への投資が体質を悪化させたことにあるそうである。日本でも一時期ホリエモンや村上ファンドがもてはやされ、一夜にして巨万の富を得る人間がヒーロー扱いされていたが、その後彼らの虚業があばかれて、「塀の中の人」となってしまったことは記憶に新しい。(奢れる者も久しからず、盛者必衰の理を現す・・・という平家物語の格言は、洋の東西を問わないようである)
 かつての日本のバブル崩壊や今回の金融危機で判ることは、いつの時代でも最後に残るものは、どこにも負けない優れた本物の技術を持っている「実業の世界」だけである。幸い日本には環境、エネルギーを始めとして、数々の素晴らしい技術の芽が育っている。昨年一挙に3名の日本人(実質4名)がノーベル賞を受賞し、日本の基礎科学技術レベルの高さが改めて証明されたが、人的資源しかないこの国は原点に戻って、地道な努力の積み重ねにより更なる技術立国を目指すしかその将来はない。過去に何度も経験したことではあるが、ピンチはその後の大きな飛躍に結びつくチャンスと考えるべきであろう。
 真の実力が試されるこの危機を正面から受け止め、かつての日本人がそうであったように、額に汗してコツコツと真面目に取り組み、巨万の富など求めることなく、「足るを知る」ことで心豊かに暮らせる世の中を再構築するため、これは神様が与えてくれた試練なのだと前向きに受け止めてみてはどうだろうか。

 閑話休題。
 ニューヨークのヤンキースタジアムが昨年85年の歴史を閉じ、今年は新たな球場が建設された。年末に、この長い歴史を持つ野球場の特集番組が放送され、そこで松井選手のデビュー以来の出来事が改めて紹介されていた。その中で松井自身が「このスタジアムには野球の神様がいることを実感した」と語っていた言葉が大変印象的であった。すなわち野球に取り組む姿勢が、そのまま結果に直結することを肌身で感じたとの内容であった。
 思い返せば2003年、デビューして満塁で迎えた初打席、満員の観衆の大きな期待の中、プレッシャーの中で見事に本塁打を放つという衝撃的なデビューを遂げ、その後勝負強さとチーム打撃に徹する姿が、当時のトーリ監督や同僚から絶大な信頼を得ることとなった。ところが順調に成績を伸ばしていた中で一昨年、左手首を骨折するというアクシデントに見舞われた。だがこの時も、ヤンキースタジアムでの復帰第一戦で、4打数4安打を放つという持ち前の強運ぶりを発揮したのであった。しかしながらこの怪我を境にして、昨年も膝の故障で十分活躍ができないままシーズンを終えた訳だが、彼のまだ短いニューヨークの野球生活の中でも、「山あり谷ありの人生そのもの」という捕らえ方を松井選手自身がしていることを知り、彼自身の精神的成長を強く感じることができて大変嬉しかった。
 なお、この3月には第2回のWBC大会が始まる予定であり、残念ながら今回も松井は出場できないが、一昨年と同様に松坂、イチローという投打の主軸の活躍に期待し、連続優勝を目指して戦う「オールジャパン軍団」に、一喜一憂するのが今から楽しみである。

                                    以上            09.01.06 守山裕次郎