2013年の初めに

                              13.01.15 守山裕次郎

 3年半前、「一度政権交代を!」との民主党のキャッチフレーズに、それまでの自民党中心の政権に辟易させられていた国民がマニフェストを信じ、政権を任せた結果がまさかこれほど低いレベルの政治家集団だったとは・・・改めて日本の政治家が三流以下だということが証明された訳だが、我々国民にとってはこの上ない悲劇であった。

 昨年末、「近いうち解散」の約束実施を野党から厳しく追及され、野田前総理が打って出た「バカ正直解散」により民主党が壊滅的敗北を喫し、結果的に自民・公明が棚ボタ的大勝利を収めた。この間、第3極と言われた政党の離合集散も含め、そのどろどろとした人間模様を観察することができ、大変貴重な勉強にもなった。

 嘉田滋賀県知事など何を勘違いしたのか、その政治思想が同じ方向とはとても思えない小沢氏や亀井氏などと一緒になり、「卒原発」だけをモットーに「未来の党」の党首に祭り上げられたものの、さすがにそこまで愚かではなかった国民にその魂胆を見透かされて大敗北を喫し、選挙を挟んだ約1ヵ月で「成田離婚的解党」に至ったが、比例で「未来の党」に投票した人たちにとっては、詐欺的な背信行為と映ったのではなかろうか。

 何はともあれ、あの体たらくの民主党政権が7月の任期満了までだらだらと続き、国益を損ない続けることが避けられた点だけは不幸中の幸いで、民主党内の大多数は自分たちの生活が第一」ということで解散反対の大合唱だったがそれを無視して解散した点は、唯一野田前総理の功績だったと言えるのであろう。

 そして安倍政権となり、彼の総理就任前の助走期間からの日銀へのプレッシャーを含め、デフレ脱却を目指した「アベノミクス」と呼ばれる日本再生への強いメッセージ性により、あっという間に為替は10円近くの円安となり、株価は千円以上も値上がりしたが、世界に向けた政治の強いリーダーシップがいかに重要かが立証された。

 この際安倍総理には、3年半前に自民党が何故大敗北を喫したのかを真摯に反省し、今回の勝利が決して自民党への積極的支持ではなく、単に民主党の余りにもお粗末な政権運営(敵失)による「棚ボタ的勝利」だったことを肝に銘じてもらいたい。彼は前回、難病が原因で不本意ながら総理の座を去ることとなり、めぐり廻って再び総理の座についた訳であるが、それゆえ決してその地位に恋々とすることなく、国難にあるこの国の再生に向け、信念を持って英知を集めて全力を尽くしてほしいと願うばかりである。

 戦後すでに70年に近い年月が経ったが、この国はあらゆる分野で矛盾が目立っている。

戦勝国の米国に押し付けられた憲法などその最たる例であり、昨今のわが国周辺の「ヤクザ国家」による乱暴狼藉にもかかわらず、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」との前文に疑問すら感じない「ノー天気でお花畑ぶりの国民」とは一体何なのであろうか?

北朝鮮のミサイル発射実験で、軌道を外れたミサイルが沖縄周辺の無人島にでも着弾し、初めて覚醒し事態の深刻さを悟るというのでは余りにも「Too Late」だと思うのだが・・話は変わるが、インフラの老朽化という意味で、先の「笹子トンネルの崩落事故」には大きなショックを受けた。長いトンネルの天井部分に重いコンクリート板が張り巡らされ、それを天井壁からネジでぶら下げる構造なのに、何十年間も点検を怠ってきたそうである。

昨年9月に目視検査だけ実施し、特に異常は認められず事故に至ったとのことで、事故のあった上り線での点検結果がつい先日発表されたが、驚くなかれ1,200箇所余りの不具合が見つかったそうである。(年末の調査では、下り線の不具合は600箇所余り)それにしても老朽化したこんな恐ろしい構造のトンネルが、ろくな点検なしに長年放置されてきた無責任体制とは一体何なのであろうか?聞くところによると道路公団が民営化され、事故の起きた中央高速道は中日本高速道路(株)の管理下にあるそうだが、相変わらず国土交通省からの天下り人事が多いそうである。
事故直後の責任者の会見をテレビで見たが、これだけの事故を起こしながら官僚的でまるで他人事のような説明態度に、この経営者にしてこの事故だったのかと、妙に納得できたのであった。

 
 ここにも官僚組織〜天下りによる「ナアナア体質」があることは容易に想像でき、その根っこにあるものは、あの福島原発事故を発生させた「最悪の想定はしたくない、自分の任期中には何も起こらないだろう」との無責任体質そのものである。今回の事故は、高度成長期に建設されたインフラが、全国各地で老朽化していることの一端が顕在化したものと謙虚に受け止め、あらゆる分野での早急なチェックと見直しが必要である。

 長年の制度疲労という意味で、その典型的事例として、教育委員会制度が挙げられる。昨年、大津の中学校でイジメ自殺が発生し、学校はもとより、大津市教育委員会の無責任ぶりには誰もが驚いた。そして先日、大阪市立高校のバスケ部員が教師からの体罰を苦に自殺した。友人からのイジメによる自殺も酷いが、よりにもよって、教師による顔が腫れ上がるほどの体罰(暴力)が公然となされ、それが原因で自殺にまで至ったということは、この国の教育現場の底なしのメルトダウンぶりが象徴された事件と言えるのだろう。

 大津の事件もそうであったが、学校当事者や教育委員会には、普段から問題を積極的に解決しようという意思もなく、何か起これば隠蔽する体質は全く同じである。そして校長を見ると(見掛けだけで判断するのも申し訳ないが)とても当事者能力があるとは思えず、教育委員会の面々はマニュアルに書かれているかのように「がん首」並べて頭だけ下げ、まるで他人事のように、理由にもならない責任逃れの説明をする点も全く同様である。

 急激な少子化を前に、次代を担う若者たちの教育環境の抜本的改善は最優先課題である。長年の腐りきったこの悪弊を一掃することは、一朝一夕には難しいだろうが、今日この時にも、全国各地の教育現場で、同様の辛く苦しい状況にある多くの若者たちがいることは間違いなく、一刻も早い現場の実態の把握と対応策の実施が急務である。

 
 それにしても、教育行政におけるこの責任は一体誰にあるのだろうか?ゆとり教育での学力低下も含め、これまた自民党を始めとする歴代政権の罪は極めて重い。日教組を筆頭に、事なかれ主義の文部科学省などは当然A級戦犯である。安倍政権には今度こそ日教組などの抵抗勢力に決して屈することなく、抜本的教育行政改革の推進を是非願いたい。

 閑話休題。

1.山中教授による「ノーベル医学・生理学賞」の受賞は、暗い話題が多い最近の日本に あって実に嬉しいニュースであった。彼がこの偉業を達成するまでの様々な苦労を知り、 改めてどんな状況でも諦めず、腐らず、地道に努力することの大切さを教えられた。

 資源のないわが国は、いつの時代であっても優れた発想力を生かし、「匠の技」を含めた技術力で世界と勝負するしか生きる道はない。バブル崩壊後の失われたこの20年間ですっかり自信をなくした感のあるわが国だが、日本人の持つ底力を今こそ発揮し、反転攻勢に転じるきっかけの年にしたいものである。

2.大晦日恒例の「NHK紅白歌合戦」を観戦した。その中で今回最も印象に残ったのは美輪明宏による「ヨイトマケの唄」だった。この歌は1964年に美輪自らが作詞・作曲したものだが、歌詞に「土方」等の差別的表現があるとの理由で、特に民放では放送禁止期間が長かったそうである。内容は彼の幼少の極貧時代、一緒に育った友人の亡き母を回顧したものだそうで、肉体労働で家族を支えながら死んでいった母親の息子への無償

の愛を見事に表現したものである。今回の「紅白歌合戦」での彼の絶唱は、貧しい時代を全く知らない現代の若者たちも含め、全国的に大反響を呼んだそうである。家族の絆が薄れがちの昨今の風潮に一石を投じる結果になったとも思われ、その際立った歌唱力には圧倒された。

                                   以上