小椋佳の世界(その詩集より)


 先に、小椋佳の作詞による「山河」という素晴らしい曲のご紹介をしましたが、今回は彼の作品で印象に残った更に3つの詩をご紹介したいと考えます。
 

1.船旅
  船旅に 擬(なぞら)えるなら 兎(と)に角(かく)に 私の船は 
  甘やかな 港を後(あと)に 帆(ほ)を立てて 錨(いかり)を上げて
  海へ出た 荒ぶる海へ
      
  煌(きら)めきの 宝探しか 安住の 島求めてか
  行く先の まだ定まらず 自らの 力も知らず
  入り混じる 期待と不安
      
  志(こころざし)同じくして 並び行く友に出逢(あ)えるだろうか
  心を熱く重ねて 連れ添える愛に出逢(あ)えるだろうか
      
  人の身は ままならぬもの 何故(なぜ)かしら 時に無気力
  情けない 怠(なま)け心が 忍び込み 漂流船と
  成り果てる 恐れが襲う
      
  海図無く 羅針盤(らしんばん)無く 蒼臭(あおくさ)い 未熟な知恵と
  競い立つ 欲望たちと 我知らず 湧(わ)く情熱を
  せめてもの 追い風にして
      
  振り返って悔いの無い 充実の海を渡れるだろうか
  嬉(うれ)し泣きできるほどの 悦(よろこ)びの場所を抱(いだ)けるだろうか
      
  船旅に 擬(なぞら)えるなら 兎(と)に角(かく)に 私の船は
  甘やかな 港を後(あと)に 帆(ほ)を立てて 錨(いかり)を上げて
  海へ出た 荒ぶる海へ

2.マグマ 
  私が 私と 思っている 私とは 異なる 私が間違いなく 存在する
  私が 知っている 私はただ 海の上に 浮かんだ 氷山 一角だけ ほんの一部
  私の 知らない 何倍もの 固まりが ひっそり 隠れて 水面下に 存在する
  いやいや 氷は 喩(たと)えとして 正しくない 
  地中に 燃え立ち 燃え続ける マグマだろう
  マグマが動いて 人に 惹(ひ)かれ始め
  マグマの指令で 人に 逢(あ)おうとする

  私が 私と 思っている 私には 私の 胃と腸 心臓さえ 動かせない
  私の 命の 維持存続 その大事に 知性も 理性も 関わるのは ほんの一部
  意識の 制御の 及ばぬもの マグマの技 私の 知らない そのマグマも 私自身
  欲望 情念 衝動など 胸底(むなぞこ)から
  休まず 私を 突き動かす マグマの熱
  マグマが動いて 人に 惹(ひ)かれ始め
  マグマの指令で 人に 逢(あ)おうとする

  始めに理由や 訳が 有るのでなく  そもそも理性や 意志の 働きでなく
  どうしようもなく人が 恋しくなり  マグマの力で 人を 愛し始める

3.出来るなら
  出来るなら 嘘(うそ)一つ無く 傷つけ合わず 着飾(かざ)らず
  支え合いする 人々と 暮らしてみたい 夢かな?
  
  出来るなら たった一人に 惹(ひ)かれ続けて 飽(あ)きもせず
  疑いもせず 一生を 愛してみたい 夢かな?

  出来るなら たった一つの 命の証(あかし) 何事か
  時代を超える 創造を 果たしてみたい 夢でも

  出来るなら 身体(からだ)と心 健(すこ)やかなまま ひたすらに
  日々美しい 人生を 描いてみたい 夢でも

  出来るなら いずれは戻る 大地自然を 裏切らず
  恵み讃(たた)える 足跡(あしあと)を 残してみたい 夢です

                                    08.08.01 守山裕次郎